自律学習の誘発を目的とした複数教員による討論型授業:大規模授業 おけるアクティブラーニングの手法と効果の考察 A Case Study of Debates Run by More than One Teacher in an Economics Class as a Teaching Method for Self-Access Learning

中野 謙、大阪国際大学
Ken Nakano, Osaka International University

Nakano, K. (2018). A case study of debates run by more than one teacher in an economics class as a teaching method for self-access learning. Studies in Self-Access Learning Journal, 9(2), 217-233.

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Abstract

For learners to be able to learn in a more autonomous way, the curriculum for large classes needs to be revised so that learners can engage in learning in a more active way. In this study, I made revisions based on my findings from my previous study on teaching a large debate class (Nakano, 2018). In my current study, students learned actively how to conduct debates by watching the teachers debate, by engaging in discussions with classmates, and actually trying the debate in a step-by-step manner. In this way, even in a large class, the aim was that the students would become more interested in debate, learn actively and in more depth than with previous methods. To evaluate this method, I conducted an anonymous survey which followed the “three elements of academic ability” published by the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology. The results showed clear differences between students who commented and did not comment on the survey.

要旨

本研究の目的は、「従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業」とされる講義形式の授業を、受講者が自律的・能動的に学ぶアクティブラーニング(AL)型の授業に転換することである。しかし、ALの導入に伴うハード面とソフト面への投資が困難であることから、前回の研究(中野、2018)では、担当教員が一人で行える手法について検討した。本研究では、その手法を改良し、教員の討論を観て学ぶことから、代表者による討論を観て、どのように討論を行うかを考えることを経て、実際にグループ討論を行うことへと、段階的に討論を経験させた。こうして、観て学んだ知識(講義や討論の内容)と技能(討論の進め方や技法)を用いてグループ討論を実践させることで、講義を通じた内化とALによる外化を組み合わせ、知識の深化を目指した。このカリキュラムの効果を計るために、「学力の三要素」が定める能力について、受講者に成長の実感について評価してもらった結果、無記名アンケートの自由記述にコメントを記した受講者とそうでない受講者で、顕著な差が見られた。

Keywords: アクティブラーニング、大規模授業、グループ討論、学力の三要素

背景

講義形式の授業は、受講者が多い場合でも一斉に同じ情報を伝えられ、また、多数の文献から適切なものを選んで提示したり、文献を読むだけでは理解が困難な教材について解説したりする際に適している。しかし、その効果は、教員の能力と技術に左右され(Bligh、1974、邦訳pp. 17-20)、教員が情報の伝達を偏重すれば、受講者は、それを聴いて書き取るだけの「一方通行的な伝統的な講義」(溝上、2013、p. 280)に陥る。そうでなくとも、受講者は、与えられた情報を記憶することを重視しがちであり、こうした無批判な暗記が批判的考察のない学習につながると、正確な技能(facts and skills)を身につけることが妨げられる(Ramsden、2003、p. 7)などの指摘がある。

これらの問題は中央教育審議会(以下「中教審」と略す)も把握しており、「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)」(以下「質的転換答申」と略す)において、「従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業」の転換が必要であるとし、そのための手法として、授業への「能動的学修(アクティブ・ラーニング)」の導入を奨励している(中央教育審議会、2012、p. 9)。

こうしたことから本研究では、講義形式の授業にその他の授業法を組み合わせ、教員と受講者、受講者と受講者の双方向性を高めるためのカリキュラムを考案し、受講者の能動的学修(AL)を促すことを目指した。ところが、授業にALを導入する場合、ハード面(設備や機材などの確保)とソフト面(人材教育や運営システムの構築など)への投資が必要となるだけでなく、ALの効率的な実施には小クラス化も必要であることから、教職員の負担増にもつながる。Exley と Dennickは、このようなコストと労務の制約が生じることにより、講義形式の授業をなくしたり、ALに転換したりすることは容易でないことを指摘している(Exley & Dennick、2009、p. 2)。

確かに、大規な模授業(受講者数による授業規模の明確な区分は見当たらないため、本稿では1クラスの受講者が100人以上の授業を「大規模」とする)にALを導入した事例は存在するが、その実現のためには、コストと労務の制約を克服することが必要であり、組織的で長期的な取り組みが不可欠となる。例えば、関西大学は大規模授業でALを行っているが、その運営システムは高度に組織化されており、相応の投資も行われている。事実、ALの導入にあたって教育開発支援センターを設立し、授業運営をサポートする補助要員(学部上級生と大学院生)の育成を行っており、また、受講者が300人を超える授業でICT(情報機器)を用いたALを実施するための設備投資も行っている。こうしたシステムが大規模授業でのALを可能としており、これは小クラスでのALにも活用されている(山地他、2012、pp. 73-74)。

これに対して本研究は、AL導入の初期段階で、コストと労務の制約の回避が困難な状況でも実践可能なALの手法を検討することを目的とする。そこで、中京学院大学経営学部の「日本経済論」(受講登録者数152名)を対象に、大規模な授業にALを導入する際に発生する追加的な費用や労務を極力少なくし、組織的・全学的なALの導入が本格化していない状況でも実践することができる手法の開発と実施に取り組んだ。これが本研究の独自性となる部分であり、後の組織的・本格的なALの導入へとつなげていくことを目指している。

一方、本研究に先立ち、「大規模講義におけるアクティブラーニング(AL)の実践とその効果の考察」(中野、2018)において、「経済学Ⅰ」(受講者220名)の授業を対象に、ALを導入したカリキュラムを検証した(以下、これを「前回の研究」とする)。本研究は、その結果を踏まえたさらなる授業改善の事例であり、本研究に賛同した2名の教員(ボランティア参加)の協力を得て実施した。

アクティブラーニング

「アクティブラーニング」という用語が高等教育の現場で使われ始めたのは1920年頃からだが、BonwelとEison(1991)は、「明確な起源や共通の定義が不足している」(p. 18)ことを指摘している。彼らは、大学の授業におけるALとは、「学生が自ら行っている活動に対して、取り組みながら考えている状態」と捉え、先行研究の分析から、その一般的な特徴として、以下の5つを挙げている(Bonwel & Eison、1991、p. 19、筆者翻訳)。

・学生が授業を聴くこと以上の関わりをしている

・情報の伝達より学生のスキルを高めることを重視している

・学生が高次の思考(分析、総合、評価)に関わっている

・学生が活動(例えば、読む、議論する、書く)を行っている

・学生が自らの姿勢や価値観を探究することに重点を置いている

日本で「アクティブラーニング」という用語が広く使われるようになったのは、「質的転換答申」が示された2012年以降であり、中教審は、その定義を「教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修」としている(中央教育審議会、2012、p. 9)。そのため、国内の教育現場におけるALの定義は、大学教育に限らず、これを援用したものが多い(例えば、中井、2015;小田、2016;西川、2016;三崎、2016など)。

一方、後述の溝上や松下の研究は、これらの定義を発展させたものであり、その定義を援用したものも多い(例えば、河合塾、2014;アクティブラーニング実践プロジェクト、2015;中井、2015;松下、2015年;安永他、2016など)。

溝上(2014)によるALの定義は、「一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習」であり、そのために、「書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」(p. 7)というものである。

松下(2015)は、ALの事例分析の結果から、ALが外化に偏重しすぎる傾向にあることを問題視している。つまり、ALは、知識の内化に偏重した講義形式の授業を批判するあまり、逆に内化をお座なりにしがちであるという指摘である。また、前掲のBonwelとEison(1991)によるALの5つの特徴に対しては、「学習サイクルでいえば、ほぼ『外化』と『コントロール』にあたる」(松下、2015、p. 9)と捉え、前掲の溝上(2014)による「認知プロセスの外化を伴う」という定義を、6つ目の特徴に加えることを重視する。それは、認知プロセスを通じた知識の内化は、その知識を活用して問題解決に取り組むこと(外化)によって再構築され、内化の一層の深化が促されるという認識に基づく。つまり、松下は、講義とALのどちらが優れているかということではなく、より深い学びのために、内化と外化を適切に組み合わせることが必要であると捉える。

これらの指摘に基づき、本研究のカリキュラム開発にあたっては、内化と外化のバランスを重視した。また、批判的考察と認知プロセスの外化を促すための手法としてグループ討論とその結果のプレゼンテーションを取り入れ、プレゼンテーションを受講者に相互評価させることで、知識の共有と再構築を促すことを目指した。さらに、内化と外化の相互作用を高めるために、これらを繰り返し行う内容にした。

方法

前述のとおり、研究対象としたのは日本経済論の授業であり、考案したカリキュラムによって授業を実施した後、受講者に対して無記名のアンケート調査を行った。授業期間は2016年9月29日から2017年1月16日までであり、この期間に15回の授業を行った。アンケート調査は、最終回(15回目)の授業終了後に実施した。

授業カリキュラム

ALの導入にあたっては、講義による情報の伝達(知識の内化)に、討論とプレゼンテーションを通じた「認知プロセスの外化」(前掲松下、2015)を組み合わせることを基礎とした。そのため、授業は、教員による2回の講義(2時限分:以下同)と受講者によるグループ討論1回の3回を1セットとし、これを15回の授業で5セット行った(表1)。

しかし、科目の特性上、授業内容は国内経済が中心となるため、討論のテーマは「世界の中の日本」という視点で設定し、講義で学んだ知識を用いて「他国との関係をどうとらえるか」という観点からのアウトプットを求めた。また、受講者が実体経済に関心を持つことを目指して、講義の一部に時事問題の解説を取り入れ、グループ討論を円滑にするための予備知識を提示した。

さらに、講義の回の授業(各セットの1回目と2回目)に、グループワークによる演習問題を設定し、可能な限りALを促す工夫をしたが、主たるALの機会は討論の回の授業(各セットの3回目)であるため、以下では、主にその方法について述べる。

nakano table 1

太田(2010、pp. 48-49)は、授業の最初に最終的な完成像(到達目標)を明確にイメージできるような働きかけを行い、受講者に「そうなりたい」という憧れを持ってもらうことで、学習意欲が飛躍的に高まることを指摘する。そこで、本研究における自律学習者の完成像として、討論番組で議論を行う討論者をイメージしてもらうことを目指した。これは、主体的に問題を見出し、情報収集を通じて解決策を導き、他者に対して説得的な提案を自律的に行うことを意味する。しかし、授業で討論番組の録画を見てもらうよりも、実際の討論に聴衆として参加してもらう方が、より明確に完成像をイメージすることができ、臨場感も伝わることから、2人の教員が賛否の立場に別れて、授業内で受講者を聴衆とした公開討論を実演することにした。だが、これだけではフロアー(受講者側)からの質疑が期待できず、クラス全体を巻き込んだ議論に発展させることは望めないため、3人目の教員がフロアーの受講者に紛れ、質疑を主導することとした。

こうして完成像をイメージしてもらった上で受講者を数名選抜し、教壇上で意見交換を行ってもらう。ただし、人前で意見を述べることの難しさと、そのための準備の重要性を認識してもらうために、まずは批判を行わないブレインストーミング形式での意見交換を経験してもらうことにした。

次の段階では、同じように代表者数名を選抜して教壇上で討論してもらうが、これは相手を説得するために論理的な議論を行う通常の討論とした。また、教員は受講者代表による意見交換や討論には加わらず、ファシリテーターに徹することとした。

こうして、討論の方法や技術(技法)を示し、討論に向けた準備の重要性を理解してもらった上で、すべての受講者に2回のグループ討論を経験してもらう予定であった。しかし、初回の授業での受講ガイダンス(授業の目的と運営方法の説明)が長引き、討論テーマに設定した範囲の講義が終わらなかったため、第1セットの1回目の討論(以下「討論①~⑤」とする)は、2人の教員がレジュメに沿って経済成長の利点と問題点を指摘しあいながら、講義に討論を部分的に取り入れた形の授業を行った。

第2セット目からは予定通りに授業を進めることができたため、当初の予定を繰り下げ、すべての受講者によるグループ討論を1回に短縮することで、討論②から⑤を行った。こうした事情により、討論①を省略し、討論②から⑤の実施方法を示す。なお、各討論のテーマと実施形態は表2に示す。

Nakano table 2

他の教員との連携は討論の回のみであり、その他の講義は担当教員が一人で行った。討論②は2人の教員による討論であり、目標とする自律学習者の完成像を受講者にイメージしてもらうことを重視した。授業の内訳は、2回分の講義の復習が30分、教員による討論が30分、フロアーからの質疑応答が10分、「討論レポート」(詳細は後述)の作成が20分である。まず、復習を行う過程で、受講者に現時点での賛否を決めさせ、その理由をメモさせた。その上で、討論を実演して質疑応答を行った。質疑応答は、前述のとおり、3人目の教員が主導し、受講者がわかりづらい事柄や疑問を持ちそうな点について質問をしたり、受講者から疑問点を聴き出したりしながら進めた。最後に、討論の内容と質疑応答の結果から、最終的な自分の立場(賛否)とその理由を討論レポートにまとめさせた。

討論レポートでは、(1)テーマの利点と問題点を各3つ以上示すこと、(2)自分の立場(賛否)とその理由を示すこと、(3)論拠を3つ示すこと、(4)論拠から導いた結論を示すことの4点を求めた(その他、「授業の感想」の自由記述欄も設けた)。この討論レポートは、すべての討論で同じ書式のものを使用し、討論終了後に回収して成績評価資料とした(グループ討論を行った討論⑤のレポートは班ごとに作成してもらったため、名前の記入欄が4名分設けてあるが、それ以外の書式はまったく同じである)。

討論③と④は、受講者が代表者の討論を観る「フィッシュボール」であり、他者の討論を観察してもらうことで、「自分ならどうするか」を第三者の視点から考えさせることを目的とした。実施内容は、討論②とほぼ同じであり、「教員による討論」の部分を、それぞれ「受講者代表による意見交換」「受講者代表による討論」とし、「フロアーからの質疑応答」の部分を「受講者同士の議論(代表者との意見交換だけでなく、討論レポートを作成しながら他の受講者と話し合うことも認めた)」とした。ただし、討論③を教員2人(司会進行1名、フロアー担当1名)で実施したところ、1名でも行えることが確認できたため、討論④は担当教員一人で行った。

討論⑤は、受講者4名をランダムに組み合わせて35の班を作り(班編成を行った第14回の授業までに受講者が139名に減った)、4つの班に1つの小教室を割り当て、グループ討論を行ってもらった。なお、班の人数を4名としたのは、前回の研究の結果から、これ以上人数を増やすと分業に偏りが生じたり、フリーライダーが生じたりして、学びの質に差が出やすくなると感じるためである(これに関しては、松下、2015、p. 7や森、2015、p. 53も同様の指摘をしている)。

討論終了後は、討論レポートに基づき、教室ごとにプレゼンテーションを行わせた。プレゼンテーションは受講者に相互評価させ、班ごとに「討論審査用紙」に順位と理由を記入させて、成績に反映させた。授業の内訳は、資料配付と小教室への移動が15分、グループ討論と討論レポートの作成が35分、教室ごとのプレゼンテーションが15分、プレゼンテーションの相互評価(順位付け)が5分、元の教室への移動と討論レポート、討論審査用紙の提出・確認作業が15分、授業アンケートの記入が5分(確認作業中もアンケートを記入させたので、実質20分程度)である。ただし、9つの小教室を使って討論とプレゼンテーションを行うため、教員が1人ですべての管理を行うことはできないため、各教室で最も番号が小さい班に時間管理を任せ、14回目の授業を用いて30分の模擬実施を行った。

グループ討論の当日は、授業終了時刻の20分前になったら、すべての作業を打ち切って大教室に戻るように指示し、作業を終えることができなければ、結果が成績に反映できないことも明言して実施した。実際には、教員が教室を巡回しながら指示を与えたため、どの班も予定通り作業を終えることができた。ちなみに、最終回は他の教員の都合がつかなかったため、授業担当者ひとりでグループ討論の管理・運営を行った。その実施方法の詳細は、拙稿(中野、2018、pp. 118-121)に準ずるので、そちらを参照のこと。

カリキュラムの評価方法

カリキュラムの学習効果は、受講者による無記名アンケートで評価した。アンケートは5件法で行い、「強くそう思う」を5点、「そう思う」を4点、「どちらともいえない」を3点、「そう思わない」を2点、「全くそう思わない」を1点とし、その平均値を目安とした。

アンケートの構成は、「授業全体について」(問1〜4)、「授業の工夫(AL)について」(問5〜16)、「あなたの成長について」(問17〜53)と、自由記述である。各設問の内容と評価結果は表3に、自由記述のコメントは表4に示す。

なお、「授業の工夫(AL)」(問5〜16)として評価の対象としたのは、(1)教員や受講者代表による討論を観て学ぶことから実際にグループ討論を行う内容への変化、(2)グループワークを取り入れた配付資料(レジュメ)、(3)複数教員による討論会(討論②)、(4)受講者代表による討論(討論③)、(5)反転授業による予習を取り入れた討論(討論④)、(6)小教室に別れてのグループ討論(討論⑤)の6つであり、これらの項目については、それぞれ、「役に立つと思えたか」(奇数の設問)と「楽しめたか」(偶数の設問)の2点を評価してもらった。

また、「あなたの成長について」は、「授業全体を通じての成長」に加え、「授業の工夫(AL)」の (2)から(6)の項目について、成長を実感できたか否かを自己評価してもらった。その評価項目は、中教審の「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)」(以下「接続改革答申」と略す)で示された「学力の三要素」の解釈(中央教育審議会、2014、p. 6)に則り、知識・技能、思考力、判断力、表現力、主体性、多様性、協働性の7つを対象とした。

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結果と考察

対象とした日本経済論の受講登録者は152名であり、アンケート調査を行った最終回に出席したのは119名(78.3%)、アンケートに答えた受講者は101名、そのうち有効回答は93(出席者の78.2%)であった。

表3の評価結果(平均値)から、授業全体を対象とした問24の「授業の工夫に対する評価」は、平均値が3.78(全53項目中の8位)であった。平均値の1位から5位は、問2「授業内容は就職活動や社会生活に役立つ」(4.02)、問5「討論を観る授業から討論をする授業への変化が役立つ」(3.89)、問1「授業に興味が持てた」(3.87)、問18「(授業全体を通じて)思考力が伸びたと思う」(3.85)、問17「(授業全体を通じて)知識や技能が伸びたと思う」(3.84)の順であった。

一方、ワースト5位は、問14「ビデオ予習と組み合わせた討論(反転授業)が楽しめた」(3.16)、問8「レジュメの内容が楽しめた」(3.25)、問12「受講生による公開討論が楽しめた」(3.36)、問45「(ビデオ予習と組み合わせた討論(反転授業)によって)多様性が伸びたと思う」(3.39)、問10「複数教員による公開討論が楽しめた」(3.4)であった。

「役に立つ」と「楽しい」による授業の評価

nakano fig 1

これらの結果から、「授業内容に興味が持て、授業の工夫は役に立つと思うが、楽しいとは言えない」と感じた受講者が多かったことが読み取れる。例えば、「討論を観る授業から討論をする授業への変化」については、「役に立つ(問5)」は2位だが、「楽しい(問6)」(3.43)はワースト6位(48位)であった。同様に、「レジュメの内容」については、「役に立つ(問7)」(3.82)は6位だが、「楽しい(問8)」はワースト2位(52位)であった。「複数教員による公開討論」についても同じ傾向が見られ、「役に立つ」(3.74)は12位だが、「楽しい」はワースト5位(49位)であった。そこで、個々の「授業の工夫(AL)」に対する評価について、「役に立つ」を横軸に、「楽しい」を縦軸にとって図1に示した。

図1は、横軸の右の方ほど役に立つと感じることを示し、縦軸の上の方ほど楽しいと感じることを示す。ここから、横軸(役に立つ)の評価が最も高かったのは問5、6の「討論を観る授業から討論をする授業への変化」であり、縦軸(楽しい)の評価が最も高かったのは問15、16の「小教室に別れてのグループ討論」であった。

一方、図1の縦軸と横軸の目盛りは同じであり、各項目を示すプロットが右下に集まっていることから、どの項目も「楽しい」よりも「役に立つ」の評価が高いことが表れている。

受講者の成長の実感

図2は、問5、6の「討論を観る授業から討論をする授業への変化」の結果を示す。これは、授業全体を通じた成長の実感を表しており、知識・技能、思考力、多様性は比較的大きく、表現力、判断力、主体性はさほど大きくないことを示している。

nakano fig 2

図3は、討論②から⑤における成長の実感を表す。討論②は教員による公開討論、討論③は受講者代表による意見交換、討論④は受講者代表による討論、討論⑤はすべての受講者によるグループ討論である。なお、討論②では受講者同士による議論を設定していないため、他者との関わりを中心とした主体性、多様性、協調性に対する成長の実感については問わなかった。

図3から、受講者は、すべての項目において、討論⑤による成長が最も大きかったと感じていることが明らかになった。前述のとおり、討論⑤(問15、16)は、「楽しい」という点では、授業の工夫の中で最も評価が高かった(問16の3.6)が、「役に立つ」という観点では、それよりも評価が高い(問15の3.81)。そこで、討論②から⑤における成長の実感と、「役に立つ」と「楽しい」の関連を、相関係数によって表5に示した。

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表5からは、討論②と③は、「役に立つ」と「楽しい」が各能力の成長の実感に与える影響が明確でなく、目立った傾向は認められない。これは、討論②と③は、知識の蓄積や能力の向上よりも、完成像をイメージさせることや事前準備の重要性を認識させることを目的としたためだと思われる。例えば、討論②の受講者の感想には、「話の内容がとても難しかった。だが、最終的にお互いが何を言いたいのかわかった。討論するとテーマに関して深まると感じた」「会社に入って、こういう話が当たり前に出てくると思うので、大学の講義でこういうことをできたのは、自分の経験にとってかなり大きいものになったと思う」などのコメントがあり、討論③の感想には、「テーマから様々な話ができるので、どう話していったらいいか、わからなかった。情報不足で、しっかりできなかった」「自分で調べてきたら、論拠が書きやすかった」などのコメントがあった(すべて原文のまま抜粋)。これらのコメントは、討論②と③の目的に適っており、意図した効果の表れだと思われる。

nakano table 5

一方、討論④と⑤は、「楽しい」と感じたか否かよりも、「役に立つ」と感じたか否かの方が、成長の実感との相関が強いことが表れている。これは、15回の授業を通じて、討論を観る立場の受講者からは「楽しみだ」というコメントがあり、行う立場の受講者からは「自信がない」というコメントがあったことに関連していると思われる。

討論②と③は、討論を行うための準備段階であり、すべての受講者は、ここまでの段階で「相手を論破するための討論」は行っていない(質疑応答とブレインストーミングによる意見交換に留めたため)。しかし、討論④は受講者代表による通常の討論であり、聴衆側の受講者にも賛否の立場から意見を述べさせ、受講者代表(討論者)に反論させた。このように、段階的に難易度を上げていったところ、討論④の感想では、「今回の討論は、前回とは違い、スムーズに進められていて、討論をしていない人の意見なども聞けて、とても良かったと思う」「討論の内容がよくなってきた。非常に興味深い討論でした」などのコメントが寄せられた(すべて原文のまま抜粋)。

討論⑤では、すべての受講者にグループ討論を行わせたため、観て楽しむ側の受講者はおらず、全員が、自信がなくても取り組まなければならない当事者となった。こうして、討論が得意な受講者と苦手な受講者が入り混じったため、「楽しい」と感じたか否かと成長の実感には、目立った相関が表れなかったと考えられる。だが、討論のスキルが社会生活に有用であることを受講者が理解していることは想像に難くないため、「役に立つ」と感じたか否かと成長の実感には、正相関が表れたと考えられる。

自由記述のコメント数と成長の実感の関係

ところで、これまで大学が実施した授業アンケートを鑑みると、無記名の自由記述を十分な時間を与えて行うと、積極的に授業に取り組んだ受講者や、授業や教員に対して不満を持っている受講者は、それを記す傾向があり、あまり授業に前向きでない、あるいは面倒だと感じている受講者は、多少不満があってもコメントを書かない傾向があることがうかがえる。

この傾向と表4の自由記述の内容を照らしてみると、授業や教員に対して、強い不満を覚えた受講者は少なかったことがうかがわれる。そこで、コメントを記した受講者(42名)とコメントを記さなかった受講者(51名)の違いを、図の4と5に示した。ただし、「役に立つ」と「楽しい」による授業の工夫に対する評価は図1とほぼ同じであるため、この図を捨象した。また、成長の実感と「役に立つ」「楽しい」の相関係数は、コメントを記した受講者の方に、全体的により強い正相関が表れているが、その傾向は、両者共に表5とほぼ同じであるため、これも捨象した。

さて、図4は、授業全体を通じた成長の実感(問17~23)に対する、それぞれの受講者の評価を表す。この比較から、主体性以外の項目では、コメントを記した受講者の方が成長を実感できており、知識・技能、判断力、多様性、協働性の項目で、顕著な差が生じていることが見て取れる。

nakano fig 4

図5は、討論②から⑤における、成長の実感に対する両者の比較を示す。図5の左図がコメントを記した受講者の評価であり、右図がコメントを記さなかった受講者の評価である。両者を比較してみると、左図(コメントを記した受講者)は、討論②から⑤のすべてにおいて、右図(コメントを記さなかった受講者)よりも成長を実感したことと、討論②から⑤にかけて、ほぼ段階的に成長を実感したことを示している。これに対して、右図(コメントを記さなかった受講者)は、全体的に成長の実感が乏しかったことと、討論②から⑤における成長の実感に、目立った差が無いことを示している。

これらの結果から、自由記述にコメントを記した受講者とそうでない受講者では、特に成長の実感において、顕著な差が生じていることが見て取れる。

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結論

本研究の効果を計るために、「学力の三要素」が定める能力について、受講者に成長の実感を評価してもらったところ、知識・技能と思考力に対する成長の実感が大きかった反面、表現力の成長は小さかったことが明らかになった。ここから、今後の課題として、討論やプレゼンテーションで自分の考えをわかりやすく表現したり、理論的に相手を説得したりする能力を高めるための工夫が必要であることが確認できた。

一方、自由記述にコメントを記した受講者は42人であり、コメントを記さなかった51人と比較すると、コメントを記した受講者の方が「授業が役に立つか否か」と「成長の実感が得られたか否か」に強い正相関があった。また、討論②から⑤に対する成長の実感はコメントを記した受講者の方が大きく、回を重ねるごとに成長の実感が増していることが明らかになった。

前回の研究(中野、2018)は、(1)大規模な講義型の授業にグループ討論を導入することにより、より自律的・主体的な学習を促す、(2) 追加的なコストや労務負担の増加を回避しつつ、実現可能な範囲で実施するという2点に重点を置いていた。そのため、受講者は、教員が目指す自律学習者の完成像をイメージすることなく、単に与えられたテーマに沿った討論を行うだけであった。これに対して本研究では、受講者に完成像をイメージしてもらい、それに向けて段階的に討論に慣れてもらうようにしたことから、前回の手法よりも多くの学生が討論に興味を持ち、それに伴って自律的な学習が促されたことが予想される。

ただし、前回の研究は、学力の三要素を取り入れた評価を行っていないため、今回の結果と直接比較することはできない。それでも、両者を自由記述のコメント数で比較してみると、前回の6件(中野、2018、p. 125)に対して、今回は42件であった。これに鑑みると、受講者は、今回の手法の方に、より積極性を示したと言えそうである。

だが、コメントを記した受講者は回答者の45.2%であり、残りの54.8%は成長の実感に乏しく、不満を覚えた受講者(評価点が1と2だった回答者)も含まれている。こうしたことから、今後もカリキュラム細部の改善や他の教授法の導入などを通じて、受講者の興味関心を引き出すための工夫と試行錯誤が不可欠である。

Notes on the Contributor

Ken Nakano is an associate professor at Osaka International University, Japan and a member of the Japan Association of Self-Access Learning (JASAL). His research interests include active-learning, program (problem) based learning, and curriculum development.

参考文献(References

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