日本語スペイン語テレタンデムによる協働学習 Collaborative Learning through Japanese-Spanish Teletandem

神田外国語大学 イベロアメリカ言語学科 シルビア・ゴンサレス
Silvia González, Department of Spanish and Portuguese Languages, KUIS, Kanda University of International Studies.
メキシコ国立自治大学 国立言語言語学翻訳学校 長尾和子
Kazuko Nagao, Mediateca, ENALLT – National School of Languages, Linguistics and Translation, UNAM – National Autonomous University of Mexico

González, S., & Nagao, K. (2018). Collaborative learning through Japanese-Spanish teletandem. Studies in Self-Access Learning Journal, 9(2), 196-216.

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Abstract

In 2017, for the first time, we organized 16 sessions of teletandem for learners of Spanish and Japanese. The participants were students of Spanish language at KUIS (Kanda University of International Studies) and students of Japanese in UNAM (National Autonomous University of Mexico). For KUIS, it was part of the course titled Special Studies on Mexico I and II. As for the Mexican side, this was one of the regular activities organized by the Mediateca in the ENALLT (National School of Languages, Linguistics and Translation). The main objective of this collaboration was to explore the potential of both institutions in different countries to make a direct and more vivid experience of communication between language students. It was also an opportunity to consider social problems in each country, practicing the language of study through conversation sessions between Japanese and Mexican students. We also expected that in this interaction students would be able to synthesize basic knowledge of their own country by responding to the expectations of communication with their partners. This paper aims to share the results noted from this collaborative learning experience based specially on self-evaluation of Mexican students, Japanese students’ learning logs and their final presentations.

Keywords: teletandem, peer learning, collaborative language learning, Spanish, Japanese

要旨

2017年に初めて神田外国語大学(KUIS)のスペイン語科の日本人学生とメキシコ国立自治大学(UNAM)の日本語学習者とのテレタンデムが16回行われた。この活動は、KUISでは「メキシコ特殊研究Iと II」という科目の一環として、国立言語言語学翻訳学校(ENALLT)では、自律学習リソースセンター(Mediateca)での通常の活動の一部として行われた。

この協働学習の主な目的は、違う国の両機関で互いの言語を学ぶ者同士が協力し、より直接的なコミュニーションの体験をする可能性を探る事にあった。それはまた、会話セッションを通じ、それぞれの国の社会問題を扱う機会でもあった。更に、我々は、このインターアクションで、学生たちが相手の期待に応えて自国に関する基礎知識をまとめられることも望んでいた。

本稿は、この協働学習体験の結果を、メキシコ人学習者に対する質問票による自己評価と日本人学習者による各セッション後の進捗ノートと最終発表を中心に報告することを目的とした。

キーワード:テレタンデム、ピア・ラーニング、協働語学学習、日本語、   スペイン語

ピア・ラーニングとは、O’Donnell & King (1999) によると、ある教育目標を目指して、学習者が他の学習者と相互交流をする教育的な実践である。それは、ピア・ラーニングの認知的な観点であり、学び手は自ら学びを構成するのであり、教師はその環境をデザインし、学びを支援するのだという考え方に立脚している(舘岡, 2007)。

ペアの学習者同士が互いの言語や文化を学ぶために共同でコミュニケーションをとるというタンデム学習の手法は、1960年代にHelmut Brammertsによって提唱され(Little & Brammerts, 1996)、協力と互恵性、学習者オートノミーが必要とされる。

タンデム活動は、2人のそれぞれ異なる言語のネイティブスピーカーが、互いの母語を学ぶことで成り立っており、相手の目的を達成させるために、ともに作業、協力し、助け合う活動である。この活動では、常に恩恵を与え、受けるというギブ・アンド・テイクを目指す。タンデムの種類には、インターネット、チャット、ビデオ通話等を使用するE-Tandemと互いに直接顔を合わせる対面式タンデムがある。ビデオ通話や対面式、チャットなどは同時的であり、e-メールでのやりとりや返信の遅いチャットなどは非同時的である。

UNAMでは2008年からMediatecaで英語のSkypeによるテレタンデムセッションが行われており、その他にもポルトガル語、日本語、イタリア語、フランス語、中国語、ドイツ語のテレタンデムを定期的に行っている。日本語のテレタンデムは2012年と2013年に東京外国語大学とパイロットセッションを行ったほか、2015年から東京大学と後期に東大側での単位取得科目としてのテレタンデムを行い、休暇には岐阜聖徳大学との独立テレタンデム(自分で日時やテーマを決めて行う、自律した本来の形のタンデム)を実施している。

この度、2017年度を通して、UNAM(メキシコ国立自治大学)とKUIS(神田外国語大学)によるテレタンデムを通した協働学習のパイロットコースが行われた。この活動には主にスペイン語科の2,3,4年生の学生とメキシコの日本語コース(主にJF日本語教育スタンダード[1]のA2レベル以上、日本語学習期間1年半以上)の学生が参加した。テレタンデムはUNAMのサポートを受け、国立言語言語学翻訳学校(ENALLT)自律学習センター(Mediateca)と神田外国語大学イベロアメリカ言語学科を通じて行われた。本協働学習の主な目的は、違う国の両機関で互いの言語を学ぶ者同士が協力し、より直接的なコミュニーションの体験をし、学びを向上させる可能性を探る事にあった。それはまた、それぞれの国の社会問題を扱い、各々が習っている言語の能力を会話セッションを通じて向上させる機会でもあった。

伝達のツールとしてはSkype, WhatsApp, Zoom, Facebookなどが使用された。

UNAMでは、自律学習リソースセンター(Mediateca)でそれぞれの学生が1台のコンピュータを使うか、ラボラトリーで自分の携帯、タブレット端末やノートパソコン等を使って行われ、神田外国語大学では、各自のiPadを使用し、通常の教室で実施された。

本研究はこのテレタンデムセッションがどのような方法と内容で行われ、どのような成果が得られたのかを考察することにある。以下、活動方法、各セッションの内容、準備とフィードバック、課外活動や交流、考察と今後の展望について述べる。

活動方法

本テレタンデムセッションは、神田外語大学ではイベロアメリカ言語学科スペイン語専攻の「メキシコ特殊研究I (Estudios Especiales de México I)」と「メキシコ特殊研究II (Estudios Especiales de México II)」という選択科目の一環として行われ、メキシコ国立自治大学国立言語言語学翻訳学校では自律学習センターでの日本語セクションの活動の一環として行われた。神田外国語大学ではSilvia Gonzálezが担当教師となり、メキシコ国立自治大学では長尾和子が自律学習センターでの担当アドバイザーとなった。テレタンデムを通じて、2つの形態の異なる選択科目内でのテレタンデムセッションと自律学習としてのテレタンデム活動が協働で行われたことになる。後述のように、それぞれの大学での準備の仕方も教材もフィードバックの方法や結果も互いにシェアされたが、最終的にどのように準備やフィードバックを行うかは、それぞれの担当教師やアドバイザーが決めることになっており、本研究での結果報告もその違いに基づいたものとなっている。協力する部分と自由裁量で行う部分とがあり、教師のオートノミーやそれぞれの大学での状況も尊重された。[2]

日本とメキシコには冬時間で15時間、夏時間で14時間の時差があるため、時間帯は、両国の参加者が UNAMの自律学習センター[3](Mediateca)の時間帯と神田外国語大学の通常のクラスの時間割に合わせて行われ、神田外国語大学の学生は通常9時から始業のところを、十分な活動時間が取れるように、15分前の8時45分に到着するようにした。このようにして、夏時間の前期は、メキシコ時間の18時45分から19時半まで、日本時間の8時45分~9時半まで行われた。また、後期にメキシコの夏時間が終わった後では、メキシコの火曜日の18時からと日本の水曜日の9時から実施された。

各セッションでは、日本のスペイン語専攻の学生とメキシコの日本語学習者は、それぞれ20分間自分の学習言語を練習し、あとの20分は自分の母語を話す機会があった。つまり、日本語での会話が20分間、スペイン語での会話が20分間、というように平等に会話が行われるようになっており、その次の週のセッションでは別のテーマでスペイン語会話20分間の後、日本語で20分間会話が行われた。先に述べたように、このテレタンデムという活動は、互いのメリットを尊重する互恵関係に基づいており、自分の語学学習を補い合い、自分の母語でのコミュニケーションを容易にするというパートナーの目的を達成するための機会が与えられた。

KUISの科目登録人数27名で、毎回のメキシコ人参加者を上回ることが多かったので、ペア、あるいは、日本人学習者2名・メキシコ人学習者1名の3人組は、名簿により事前にKUISの担当教師により示唆され、日本人スペイン語学習者の会話能力やペアの同士の相性、前回のセッションの感想なども考慮され、なるべく毎回違う相手と会話ができるように配慮されたが、その日の欠席者や遅刻者などにより、急遽変更になることも多かった。

技術的な問題としては、多くの参加者がいる場合のインターネットの通信容量不足や雨や嵐などの天候による通信不良、Skypeや使用機材に関する知識不足による画像や音声の不備などもあり、練習時間に支障を来すこともあった。そのため、それぞれの大学のテレタンデム担当者であるKUISのコース担当教師(Silvia González)とUNAM  ENALLTの自律学習アドバイザー (Kazuko Nagao)は、UNAMのMediateca技術担当者やテレタンデム担当者とともにWhatsAppのグループを作成し、不測の事態に備えて、セッション中に迅速に連絡を取り合った。

また、公平に練習するために、我々担当教師・アドバイザーの2人は、各セッションでの会話を日本語とスペイン語を交互にはじめ、会話がうまく進んでいるか、言語を変える時刻などをモニターし、ペアの会話の進行をサポート管理した。

セッションの内容

前期では、毎週1回、計10回に渡り、神田外国語大学の通常の学期のコースの期間(2017年4月から7月まで)に合わせて、セッションが行われた。

前述の通り、この学期では、「メキシコ特殊研究I (Estudios Especiales de México I)」という科目で扱われるテーマについての会話が行われた。

第1回  自己紹介・出身地(地理)・好きなことや趣味

第2回  料理・自分の料理・国の郷土料理は何か

第3回  子供のころの思い出 自分の国の子供たち

第4回  娯楽・レジャー 自分の国ではどのようにして楽しむか

第5回  観光と旅行 自分の国でよく皆が訪れる場所はどこか

第6回  祭りと伝統 どのような伝統的なお祭りがあるか

第7回  自分の国の有名な人・リーダー・その影響 意見

第8回  習慣 自分の習慣 どのような習慣やエチケットがあるか

第9回  教育と大学生活と学生 自分の国にはどのような教育制度があるか

第10回  視点とステレオタイプ 自分の国の人々はどのように映るか、他の国の人々をどのように見ているか。

また、互いの大学の祝日や学期に合わせて、日程を調整し、1回の休みをとることで、学生は、それまでに話したテーマについて調べたり、コメントをしたり、内省したりすることができた。その後、コースを再開し、全てのテーマでの会話セッションを完了した。学期の終わりに、新たに、今学期のテーマについての発表やコメントをした。

後期では、両大学で相談し、タンデムセッションを2週間に1度行うことにしたため、計6回のセッションとなった。これにより、1つのテーマに2週間をかけ、1週目は、翌週の他国とのセッションの前に、テーマについて親しみ、語彙を探したり、質問を考えたり、コメントをしたりすることが可能となった。

この期間のテーマは次の通りである。

第1回 音楽 自分の国ではどんな音楽が聴かれているか。自分の好きな音楽は?

第2回 ことわざと格言 自分の国ではどのようなことわざや格言が使われているか。また、どのような意味があるか。

第3回 死者の日とお盆 自分の国では死者を思い出すのにどのような伝統があるか。

第4回 「価値のある」人物 自分の国の紙幣に現れる人物について語る

第5回 面白い体験 自分にとって一番面白かった体験はどのようだったか。

第6回 祭りと伝統 クリスマスとお正月 自分の国ではどのように祝うか。

準備とフィードバック

各セッションの準備とフィードバックはメキシコUNAM側と日本KUIS側では異なった方法で進められた。以下に詳細を示す。

メキシコ(UNAM)側の準備とフィードバック

UNAMではテーマに合わせて、各セッションの前にアドバイザーが作成した教材がメールによって送られ、参加者はそのガイド(語彙や表現、質問、会話の流れ等のヒント)に合わせて、自主的に準備を行った。

セッションの行われるリソースセンターでは、セッションの前に用意してきた語彙や表現の書いてあるノートを広げ、学習者同士で確認したり、アドバイザーに個別に質問したりする様子が見られた。

また、各セッションの後には感想やよくできた点、難しかった点などをたずねる5分から10分程度の短いフィードバックセッションが行われ、Google Formsによるアンケートに答え、活動の仕方に関する意見や、自己評価、会話の相手へのコメントなどを記入し、次回への目標を立てた。

アンケートの構成とその結果

以下がメキシコ人日本語学習者に対して各セッションのフィードバックとしてGoogle Formsで行なわれた各回のアンケートの構成である。

  • 基本データ(氏名、大学の専攻、校内での日本語履修レベル、趣味)
  • このセッションについて
  • 自己評価
  • 相手について
  • 全体的なコメント

自己評価に関しては以下のような質問の回答を得た。

  • 日本語でどのように言えばいいかわからなかった言葉や文法について書いてください。
  • このセッションで学んだ言葉や新しいことについて書いてください。
  • このセッションでどのような文化的な側面について学びましたか。

相手やセッションついては以下のようなことについてコメントしてもらった。

  • 今日話した相手の名前を書いてください。
  • 相手の会話力の向上のために、次回どのような目標を立てるようにアドバイスしますか。
  • このセッションで一番話が盛り上がったのはどんな時ですか。
  • コミュニケーションが取りづらかったのはどんな時ですか。何が原因だと思いますか。

以下の3つのグラフは第1回と第8回、第9回のセッションのアンケートの一部で、自己評価について問うた部分である。質問は「どのような能力を伸ばしていくべきだと思いますか。」で、「語彙」「発音」「文法」「流暢さ」という会話能力の下位分類の観点に関して、それぞれ「もっと努力が必要」、「まあまあ」、「良い」、「とても良い」の中から選んで、自己評価をしてもらった。それぞれの回のアンケート回答者は異なっており、回答数も違うが、評価の平均値としてここに示す。

第1回目の「自己紹介」の回では、参加者のうち14名から回答があり、青色の「もっと努力が必要」が語彙・文法・流暢さでも一番多かった。

gonzalez nagao graph 1

しかし、回を追って、第8回の「教育・大学生活」(6名回答)、第9回の「ステレオタイプ」(5名回答)と、テーマが難しくなっているのにもかかわらず、青の「もっと努力が必要」とした学習者は少なくなっていき、黄「良い」を選ぶ学習者が増え、語彙や流暢さに赤「まあまあ」を付ける学習者はいるものの、自分の会話能力に自信を持ち始めていることがわかる。

gonzalez nagao graph 2

 gonzalez nagao graph 3

このように、メキシコUNAM側では、自律学習リソースセンター内でのほぼコース形態を取らない形で進めた活動ではあったが、おのおのが自分の役立つように準備を勧め、「会話になったら、その準備にもこだわらず、相手との会話を進める」とフォローアップインタビューでもコメントがあったように、会話自体を楽しみながら、会話能力が向上して行けたとの反応が多かった。

だが、もちろん、タンデムセッションが充実したものになるための準備は必要で、やりとりから段落による説明や語りへとOPI(Oral Proficiency Interview)における中級から上級への文から複文へ、段落へと発話を伸ばしていく視点を教材や活動の中に組み込んでおく必要はあると思われる。

日本(KUIS)側の準備とフィードバック

上記の通り、前期と後期では活動の方法が変わった。前期では、学生は宿題として語彙や質問、会話テーマに関する情報を探すことを行った。また、セッション後には、Cuaderno de avances(進捗ノート)というシートに、どのような会話が行われたかを報告し、自己評価を行った。

後期では、隔週でセッションをしたため、テーマは少なくなったが、回を追うごとに難しくなるテーマに関する語彙や表現準備をした。

1週目は教師がテーマに関する発表をし、学生は語彙や情報を探し、翌週の会話で必要な質問や表現が役立つように、クラス全体でコメントをした。宿題はその情報を補足することだった。

翌週は会話セッションを行い、最後にまた、内容のコメントや一番面白かった点、新しい言葉や相手とのコミュニケーションで困難だった点などを「進捗ノート」に書いて、提出した。テーマはコースの「スペイン語話者が最も多いメキシコについての基本的な情報を得る」という目的に合っていたと思われる。

進捗ノート

前述のように日本人学生はセッションごとに「進捗ノート」というレポートを提出した。このレポートは教師によってチェックされ、アドバイスやコメントなどが書かれ、疑問点を解決したり、次のセッションでより良いコミュニケーションをするために役立った。

前期では、語彙、コミュニケーションのためのアイディア、分からなかった言葉や表現、会話の要約、自己評価などが組み込まれ、後期では、語彙・内容・質問・会話の要約というように、簡略化された。

評価

本テレタンデムの参加者にはこのコースに関連するいくつかの個別目標においてその能力の向上が見られた。一つは、本科目で求められる知識(この場合、歴史や文化、メキシコ社会などのテーマ)、もう一つは、話したり書いたりする言語運用能力である。これはJF 日本語教育スタンダードではこの能力を産出能力としている。

このような能力の伸びはテレタンデムの活動中に継続されたサポート管理や次にあげる評価のプロセスにより観察された。1)準備のセッションでは学習者が用意した語彙や質問が、グループでの討議や進捗ノートに書かれたものも見直された。2)セッションでの会話の内容の要約:進捗ノートにはどのような会話が行われたか、準備したテーマやテレタンデムのセッションで話されたものについての主な項目が記述された。3)自己評価:「語彙・発音・文法・流暢さ」に関して、どのぐらい満足度を感じているかが1~5の5段階評価(数の多い方が満足度が高い)で評価された。この部分では、ほとんどの学習者が学期を通して進歩を感じていると記述し、当初1で最も満足度が低かった、特に「流暢さ」や「発音」という項目が学期の終わりには4や5と満足度が高くなった。

進捗ノートに書かれた進歩の他に、以下の活動を行った。1)学期の半ばと学期末にテレタンデムセッションで話したテーマに関する口頭発表を行った。この発表はビデオに録り、一人一人の学習者の口頭表現力をテーマに関する知識、分かりやすさ、内容の一貫性、流暢さという項目で測った。2)学期末のレポートは、それまでに書いた文章の内容や一貫性を改めて見直すために行われた。

このような評価方法は「メキシコ特殊研究」という科目を履修した全ての日本人学生に対して行われ、テレタンデムに参加することにより向上した、学習言語でのコミュニケーション能力の向上を記録するために用いられた。

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課外活動や交流

このように、両国の学生たちは、コースが進むにつれ、比較文化のテーマに精通し、コミュニケーション能力を高めていった。

更に、学生たちは、コースでの活動の他、テレタンデムの担当教師・アドバイザーや他の参加とFacebook等で交流することができた。このコースのために、特別に開設されたFacebookの当事者以外非公開のページがあり、主に日本人学生がスペイン語での投稿をし、メキシコ人学生はそれにスペイン語や学んでいる日本語でコメントを返したり、たまに自分でも投稿したり、した。このように、参加者同士でより気兼ねのないコミュニケーションをとり、コースやセッションで扱ったテーマをより自由で親しい形で深めることができ、人間関係も豊かになったと考えられる。

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4回「面白い体験」について

また、このFacebookのページは、メキシコと日本のそれぞれの教師やアドバイザーが教材を投稿し、次のテーマについて知らせることもでき、参加者は教材のファイルや画像のPDFなどにアクセスすることができ、それぞれのテーマのセッションに備えた。

gonzalez nagao fig 3

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コースで扱われた様々な伝統に関する文化行事での交流は、言語学習や実践を助けることとなった。例えば、KUIS(神田外国語大学)のMULC (Multilingual Communication Center,多言語コミュニケーションセンター)で行われた「死者の日」の行事があげられる。コースで学び、セッションでお盆と比較した上で、メキシコ人の学生によって詳細に語られた「死者の日」特有の伝統的な習慣(祭壇を飾る・お供え物をする、骸骨のモチーフのお菓子の飾りつけやフェイスペインティングをする、等)を理解し、そのいくつかをKUIS校内でも実践することができた。

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また、テレタンデムのセッションでオンラインで行ったメキシコのクリスマスの行事では、後期最後のセッションで話したテーマ「クリスマス・お正月」を活かし、日本人学生は、日本から生中継で、メキシコの家やその近所という現実の場所から繋がっている教師やメキシコ人の仲間と交流をした。メキシコの学生たちは各々の家からの中継だったため、通話を開始する側のみのコントロールで通話が始められる、ビデオ通話ソフトのZoom[4]というツールを使い、メキシコシティーの様々な場所にいる学生や先生たちと同時に繋がり、ポサダ[5]というクリスマスの行事を行い、同じ歌を輪唱したり、クリスマスにちなんだ飾りを置いたりすることができた。

このような行事への参加を通じて、メキシコ人パートナーと交流し、学んだテーマについてより深く知る事ができ、日本人学生の会話能力を伸ばす意欲が高まったと思われる。

考察と今後の展望

前述のとおり、教師やアドバイザーによる観察や、セッション後のアンケート(メキシコUNAM側)、進捗ノートや口頭発表(日本KUIS側)により、メキシコ人日本語学習者・日本人スペイン語学習者の両グループの学習者が「テレタンデムを通じて自分の会話能力が上がった」と感じているということがわかった。また、メキシコ人日本語学習者は「リアルな日本事情や同年代の日本人の考え方や日本語表現が理解できた」ということをテレタンデムの成果だとしている。また、参加者の中には、互いの国で旅行をしたりした際に、タンデムパートナーと交流するものもいた。

一方、アンケート調査により困難だった点としてあげられたのは、「テーマに関する語彙や文法表現の不足」「インターネットの不具合などの技術的な問題」「自分の国に関する知識の不足とそれを他の言語で伝える事の難しさ」「テーマによっては話が続かなかった」などである。準備を行うこととセッションで学んでいくことにより、これらの問題を少しずつ解決していく必要があるだろう。また、技術的な不具合はつきものだが、なるべくそれを改善していくための事前のワークショップ等の充実や配慮が必要だと思われる。次のコースでは、テーマをなるべく自主的に選ばせることにより、話しやすく、準備もしやすくなるのではないかと思われる。

「メキシコ特殊研究」という科目に関しては、メキシコという研究対象に関する興味や異文化という視点からの分析の観点が増えた。タンデムセッションにより相手の考えや意見を聞くことにより、ステレオタイプではない実際の文化の諸相が形作られていったのではないだろうか。

このテレタンデムのパイロットコースでは、神田外国語大学のスペイン語の正式なコースとして行われ、よりダイナミックな進め方の新しい手法のコースということで、学生の興味が高まった。

また、UNAMのMediatecaでは、それ以前に2015年から進められていた他大学とのテレタンデムでの経験やテーマを活かし、異文化理解や自律学習リソースセンターでの会話能力の向上という意味でも、より深い形での協働学習を神田外国語大学と進めることができた。

前述のように、この活動で得られた明らかな進歩は、学習者が自らのコミュニケーション能力の向上を指摘していることである。そのため、我々は本年度(2018年度)でもこのシステムを使って、今回得られた「やりとり」の能力を活かし、更に「語り・討論」(Oral Proficiency Interviewの会話能力判定の基準による)の能力が伸びるような活動を進めることにした。神田外国語大学では、「スペイン語圏マスコミュニケーション論I」と、その続編の「スペイン語圏マスコミュニケーション論II」という科目で、少し形を変えながら、コースのテーマに合わせて、UNAM ENALLTのMediatecaとテレタンデムの手法を用いて、4月より活動を始めた。このコースで、学生は簡単なニュースを読み、情報を探したり、することで、ニュースを要約し、テーマに関して意見交換をする。学生はニュースに関するテーマや時事問題の討論に参加するこが期待される。これは、Oral Proficiency Interviewでの超級の能力を活動として組み込むものである。あるいは、OPIの超級レベルで求められる複段落で話すほどにはならないかもしれないが、テレタンデムのセッションが時事問題に関する情報・意見交換の場になり、主な目的としては、セッション後に日墨の学習者が共同で記事を書いて、スペイン語と日本語の両言語でCOMUNICKANDAというオンライン誌に発表するということにある。このようなテレタンデム活動で、様々なレベルに到達する学生の今後の発展に期待したい。

また、今後の研究の展望として、テレタンデムが実際にどのように行われ、どのような成果が得られたかを今回取られたデータを更に細かく分析してみる価値があると思われる。会話内容のディスコース分析や、実際にどのように会話が行われたのかについての進捗ノートの内容の分析、前期に日本人スペイン語学習者を対象に行われた同一回答者による自己評価の詳細な分析、脇坂(2013)で行われたような一人の参加者や同一ペアの活動の追跡等、様々な活動のプロセスとして入手できた資料を更に詳細な検証が必要だと考えられる。

謝辞

末筆になりましたが、当テレタンデムプロジェクトを行うにあたり、UNAM, ENALLT, Mediatecaの現コーディネーターであるAdelia Peña Clavel 先生より多大な助言とご協力をしていただいたことをここにお礼申し上げます。

Notes on the Contributors

Silvia González is a Mexican journalist and scholar specializing in Communication. She obtained a PhD in Japanese Studies from El Colegio de México. She is the author of books on issues related to peace, human rights and communication. She has taught at different Mexican universities and is currently a Professor at Kanda University of International Studies (KUIS) in Japan.

Kazuko Nagao is an Associate professor at the National Autonomous University of Mexico (UNAM). She is a learning language adviser at the SALC (Mediateca) at the National School of Languages, Linguistics and Translation (ENALLT). She obtained a Master’s degree in Applied Linguistics and is a PhD candidate in Linguistics at UNAM.

References

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Benedetti, A. M. (2010). Aplicaciones potenciales del contexto teletándem para el aprendizaje de lenguas extranjeras [Potential applications of the teletándem context for the learning of foreign languages] Moderna Språk, 104(1). 42-58. Retrieved from http://hdl.handle.net/11449/122568

池田 玲子 & 舘岡 洋子. (2007). 『ピアラーニング入門 – 創造的な学びのデザインのために』 [Introduction to peer-learning: Designing creative learning opportunities.] ひつじ書房.

Little, D., & Brammerts, H. (1996). A guide to language learning in tandem via the internet. Dublin, Ireland: Trinity College, Center for Language and Communication Studies.

牧野 成一, 鎌田 修,山内 博之,斉藤 真理子,荻原 稚佳子, 伊藤 とく美, & 中島 和子. (2001). 『ACTFL-OPI 入門 ― 日本語学習者の「話す力」を客観的に測る』 [Introduction to ACTFL-OPI: How to assess learners’ speaking skills of Japanese language objectively] アルク.

O’Donnell, A. M., & A. King (Eds.). (1999). Cognitive perspectives on peer learning. Mahwah, NJ: Erlbaum.

Ojanguren, S. A. (2006). El aprendizaje autónomo de lenguas en tándem. Principios, estrategias y experiencias de integración [Autonomous language learning through tándem: Principles, strategies and integration experiences] Asturias, Spain: Ediciones Universidad de Oviedo.

舘岡 洋子. (2007). 「ピア・ラーニング」[Peer-Learning] 国際交流基金『日本語教育通信 日本語・日本語教育を研究する』第33回,Retrieved from https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/tsushin/reserch/033.html

脇坂 真彩子. (2012). 「対面式タンデム学習の互恵性が学習者オートノミーを 高めるプロセス : 日本語学習者と英語学習者のケー ス・スタディ」[The process of how reciprocity promotes learner autonomy : A case study of a Japanese-English tandem pair].『阪大日本語研究』, 24, 75-102.

脇坂真彩子. (2013). 「Eタンデムにおいてドイツ人日本語学習者の動機を変化させた要因」 [Factors that influenced the motivation of a German learner of Japanese in eTandem]   『阪大日本語研究』, 25, 105-135.

[1] JF日本語教育スタンダードとは、日本語能力を測るために、ヨーロッパ共通参照枠(CEFR)を参考にして国際交流基金(The Japan Foundation)によって作られた基準で、基礎から上級へA1, A2, B1,B2,C1,C2という6つのレベルに分かれている。国際交流基金(The Japan Foundation)のウェブサイトには「JF日本語教育スタンダード(JFスタンダード)はコースデザイン、授業設計、評価を考えるための枠組みです。課題遂行能力(言語を使って課題を達成する能力)と、異文化理解能力(お互いの文化を理解し尊重する能力)を育成する実践をサポートし、日本語を通じた相互理解を目指します。」と書かれている。https://jfstandard.jp/summary/ja/render.do

[2] この点がこのプロジェクトの重要な点であると言える。互恵関係に基づき、協力する教師同士が互いの方法を尊重することにより、初めて成立した活動であったと思われる。互いに意見交換をし、交渉し、進めて行く姿勢が重要であり、それは、学習者同士のテレタンデムにおける協働学習の姿勢ともつながる。

[3] 当自律学習センターはMediatecaという名前で、自律学習リソースセンターとも翻訳され、1995年にメキシコ国立自治大学外国語教育センター(UNAM, CELE) 内に開所した。日本語セクションは2006年に開設された。

[4] Zoomはインターネットでビデオ通話のできるソフト。双方向でアカウントを用意しておかなければならないSkypeと違い、通話を開始する側さえZoomのアカウントやソフトを持っていれば、通話開始者から送られてくるリンクにアクセスするだけで、そのつど簡単にいつでもどこでも通話が始められる点が利点だとされ、最近ではテレタンデムでも使われることが多くなってきている。ただし、無料通話の時間が無制限ではないため、40分を過ぎると、再度通話側がビデオ通話を申請しなければならない。今回の場合は、無料の40分以内で済む活動だったため、Zoomを使用した。

[5] ポサダ(Posada)とは、イエス・キリストを身ごもったマリアとその夫ホセが出産できる場所を探して旅をしていた期間のクリスマス前の9日間(12月16日~24日まで)を祝う行事。その行事では、パーティーに参加している人が二手に分かれ、他の人の家に入りたいマリアとホセ側とホストになる家の住人側に分かれて、特別な歌を輪唱し、最初は誰が来たのかといぶかしがっていた住人も根負けして家を提供し、マリアとホセがその家に寄せてもらう場面を演じる。ピニャータというお菓子や果物の入ったくす玉を目隠しした子供や大人が割ったり、季節の果物のリンゴやグアバを、サトウキビ、黒砂糖、シナモンと煮込んで作る温かい飲み物ポンチェなどを飲みながら、皆和気あいあいと過ごす。

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