自律的日本語学習を支える学習環境としての留学生支援システム International Students Support System as a Learning Environment Fostering Autonomous Japanese Language Learning

古屋憲章,早稲田大学
Noriaki Furuya, Graduate School of Waseda University, Japan
黒田史彦,首都大学東京
Fumihiko Kuroda, Tokyo Metropolitan University, Japan

Furuya, N., & Kuroda, F. (2018). International students support system as a learning environment: Fostering autonomous Japanese language learning. Studies in Self-Access Learning Journal, 9(2), 135-145.

Download paginated PDF version

要旨

自律的日本語学習の実現を支える学習環境の整備にあたり必要となる理念と実践に関し、記述する。日本語を学ぶ人たちが、自己実現に向けた学びを成就するには、豊かな学習環境が欠かせない。学習に資するリソースとなるヒト・モノ・コトを選び、個別的学習環境を構築・更新することで、学習者は適応学習を実現し、自律的学習者へと成長する。本稿では、早稲田大学における留学生支援システムを事例に、学習環境の整備に関し議論したうえで、学習環境整備の一環として、ノットワーキングが必要であることを指摘する。

Abstract

We will describe our philosophy and practice to improve the learning environment which supports the autonomous learning of the Japanese language. The rich learning environment is indispensable for learners to fulfill their learning for self-actualization. By choosing people, things, and events as resources to contribute to their learning, learners can construct and update their own personalized learning environments, realize adaptive learning for themselves, and grow into autonomous learners. In this paper, we will discuss the development of the learning environment of the International Students Support System at Waseda University, and argue the necessity of knotworking to expand their learning environment.

キーワード:学習者オートノミー、個別的学習環境、留学生支援システム、
ノットワーキング、連携

実践の背景と前景

外国語を学ぶには、何らかの学習リソースが不可欠である。広義の学習リソースには、外国語学習に資するすべてのヒト・モノ・コトが幅広く含まれ得る。日本語学習の場合、ヒト的リソースとしては、日本語教師、学習支援者、クラスメイト、日本語を話す友人・知人などが挙げられる。モノ的リソースには、教科書や図書、辞書、マンガ、テレビ番組、ウェブ上の動画や学習サイト、学習アプリなどが含まれる。コト的リソースとしては、日本語の授業、多読サークルや学習者向けワークショップ、日本人との交流イベント、日本語の試験など、枚挙に暇がない。

今日、日本国内の大学で日本語を学ぼうとする留学生は、実に多様なリソースが利用できる。頭の体操として日本語を学ぶようなケースを除き、ほとんどの日本語学習者は、自己実現の一環として、各々が理想とする日本語使用者像に近づくことを目指している。言うまでもなく、一人ひとりの学習者が、自らに相応しい学習を設計し、実行できることが望ましい。多彩な学習リソースの中から自分に適したリソースを選んで組み合わせ、自分に合った進度で、自分の目標へ向かって進もうとする。しかし、学習の自己管理は、決して容易ではない。困難や疑問を感じた場合、大学で用意されている学習支援を利用することができる。この学習支援サービスも、当該サービスの担い手である支援者も、学習リソースの一例に過ぎない。

以上のような学習観、学習支援観を背景としつつ、次節以降では早稲田大学における取り組みである「留学生支援システム」の理念を浮き彫りにする。特に「わせだ日本語サポート」における実践に焦点を合わせ、具体的に論じていきたい。

留学生支援システム

自律的日本語学習とは、日本語学習リソースにセルフアクセスすることと規定できる。セルフアクセスとは、学習者が自分の意志で、自分に相応しい学習リソースに辿り着き、そのリソースを利活用した学習を実現することである。或る学習者がセルフアクセスできるリソースの集合が、その学習者の「学習環境」となる。学習者は、学習の進捗や状況に合わせてリソースを取捨選択し、時にリソースの利用を終了し、学習環境を随時アップデートする。学習環境が或る学習者にとって最適化されることにより、その時点における「個別的学習環境」が形成される。

Furuya fig 1

支援者の役割に目を向けると、学習支援とはセルフアクセスの促進に他ならない。具体的には、学習環境の拡大、学習リソースの拡充、学習リソース間のネットワーク作り、そして、ネットワークへのポータル作りという四つにまとめられる。

学習者は、無数の選択肢の中から学習リソースを選び出す。学習リソースとなり得るヒト・モノ・コトはいたる所にあるはずだが、学習者がその存在や可能性に気づいていないことも多い。どこに如何なるリソースがあり、どのような学習者に向いているのか、支援者が学習者のニーズに応じて紹介することにより、学習者の視野は拡がり、学習環境も拡大する。理想的な学習リソースが、必ずしも手に入る訳ではない。既存のリソースが物足りない場合もあれば、何らかの理由により、セルフアクセスが困難な場合もある。そういった場合、支援者は、独自の学習リソースを作成することを検討してもよいだろう。例えば、大学内のコト的リソースとして、日本人との言語交換(language exchange)の機会を設けることなどが考えられる。このように、支援者が独自の学習リソースを新規開発したり、既存リソースを発展させたりすることにより、学習リソースは拡充できる。

Furuya fig 2

大学内には数多くの学習リソースが存在しているが、学習リソース間の連携が不十分なケースも散見される。異なる国際交流組織が同じ日時に交流イベントを開催することもあれば、学部ごとに学術的文章の作成支援を行っていることもある。大学全体でどのような学習リソースが提供されているかを把握し、場合によっては関係部署に働きかけ、棲み分けや相互補完ができるよう調整することも支援者には求められる。各学習リソースが孤立してしまうことなく、それぞれの強みを活かしながら連携することにより、大学内の学習リソース間でネットワークが形成される。

学習リソースを必要とする学習者が、大学内のリソースへ効率的・効果的にアクセスするためには、ネットワークに容易に入り込むためのポータル(入口)があることが望ましい。例えば、いつでも、誰でも利用できる学習相談室などが、ポータルの役割を果たす。支援者としての日本語学習アドバイザーがポータルに常駐し、専門的なアドバイジングを提供できれば、学習者は存分に学習リソースを活用し、思い描く通りの日本語学習を実現できるだろう。ポータルもアドバイジングも、学習リソースの一種である。そして、多種多様な学習リソースを結び付けたネットワークの総体が、「留学生支援システム」である。留学生支援システムという下絵の必要な部分をなぞれば、学習者は個別的学習環境を容易に描き出すことができる。

Furuya fig 3

次節以降では、自律的日本語学習を支える学習環境構築の実践例として、早稲田大学における「わせだ日本語サポート」を中心に据えた留学生支援システムの取り組みを紹介する。

「わせだ日本語サポート」開設の背景と問題意識

「わせだ日本語サポート」(以下、「サポート」)とは、日本語教育研究センター(以下、CJL)において、早稲田大学に在籍する日本語を母語としない学生1)を対象に行われている自律的日本語学習を支援する実践である。

早稲田大学では、近年、留学生等の日本語を母語としない学生の増加2)にともない、「教室外でどのように日本語学習を進めればいいかわからない」「日本語で日本人と知り合うことが難しい」といった留学生等の日本語学習、および日本語使用をめぐる多様な問題が顕在化するようになった。このような状況に対応するため、現在、学内各部署で様々な支援実践が行われている。

留学生に対する支援は、従来、主に日本語科目を提供するという形態で行われてきた。しかし、日本で生活している学生たちは、教室でのみ日本語を学習したり、使用したりしているわけではない。むしろ、教室外において、日本語の学習/使用をめぐる様々な問題に遭遇する。そのため、日本語科目を提供するという形態での支援には限界が出てきた。また、学内には、従来から日本語科目以外の日本語学習リソース(チューター教室、学生読書室等)や留学生サポート(ライティング・センター、留学センター、キャリアセンター、異文化交流センター等)が存在していたものの、それらに関する情報が留学生に届いておらず、結果的に利用が伸び悩んでいた。

そこで、CJLでは、留学生の増加と多様化にともなう諸問題に対応するため、2010年度に留学生支援システムの運用を開始した。留学生支援システムとは、自律的日本語学習の実現のため、日本語学習リソースや留学生サポートと個々の留学生を結ぶ支援ネットワークである(黒田,2012,pp.8-9)。「サポート」は、「留学生支援システムと留学生との最初の接点となるポータル」(黒田,2012,p.14)として、2011年3月に設置された。

「わせだ日本語サポート」の具体像

「サポート」は、留学生が日本語科目のみに依存することなく、大学生活の中で遭遇する日本語の学習/使用をめぐる諸問題に対応できるように、個々の学生の自律的日本語学習(=学習者オートノミー)を支援することを目的とする。学習者オートノミーとは、「自分の学習に関する意志決定を自分で行なうための能力」であり、「学習の目的、目標、内容、順序、リソースとその利用法、ペース、場所、評価方法を自分で選べるということ」(青木・中田,2011,p.2)である。「サポート」は、上述したように、支援ネットワークへのポータルであると同時に、支援の拠点でもある。そのため、「サポート」は、日本語に関わる問題や疑問を抱えた留学生が躊躇なくセルフアクセスできるよう、いつも決まった場所にあり、常に広く開かれている。

「サポート」は、多くの留学生が利用するラウンジの一角に置かれている。開室時間は、毎週火曜日、水曜日、金曜日の12:00から17:30までである(2018年度春学期現在)。「サポート」には、通常2名のスタッフが常駐している。スタッフは、支援者としての日本語学習アドバイザーの役割を担う。一方で、スタッフは早稲田大学に在籍する大学院生/学部生3)であるため、ピア・サポート、すなわち、同じ学生という立場から留学生を支援する。具体的には、来訪する学習者を対象に主に次の三つの支援実践を展開している。

(1)日本語学習アドバイジング:

学習者と継続的、かつ計画的に対話を重ねることをとおし、学習者が自身の学習目的を明確化し、現実的な学習目標を設定し、学習計画を立て、学習の進捗状況を記録するとともに、自らの学習を振り返る手助けをする。

(2)日本語学習リソースに関する情報提供:

学習者と対話しながら問題点や学習目的を明確化した上で、日本語学習リソースや留学生サポートに関する情報提供を行い、最適と思われるリソースやサポートに自身でセルフアクセスできるよう道筋を示し、送り出す。

(3)日本語学習相談:

学習者からの基礎的な文法、表現、語彙、漢字等に関する質問にピンポイントで答える。ただし、単純に答えを与えようとするのではなく、どうすれば答えに至るかを自身で考えてもらうことを意識しつつ、対話を進める。

上述した支援実践において、スタッフは学習者と1対1でセッションを行う。セッションは基本的に日本語で行われる。利用者から要望があり、かつ当該のスタッフが対応可能であれば、利用者が希望する言語(英語または利用者の母語)によりセッションが行われる場合もある。1回のセッションの所要時間は、約45分である。セッション終了後、スタッフは対応シートにセッション内容を記録する。対応シートに記入された内容は、当該の学習者が再訪した際に参照される。

「わせだ日本語サポート」に寄せられる相談内容の質的変化

「サポート」は、2011年度に設置され、現在まで継続している。2014年度頃から「サポート」に寄せられる相談の内容に質的な変化が見られるようになった。下記の表1は、2013年度と2014年度の相談内容別の件数を示している。

Furuya table 1

上表の「その他」は、「学習相談」、「情報収集」、「日本語の質問」に含まれない相談内容を表す。具体的には、科目履修相談、日本語能力試験、就職活動、大学院進学等に関する相談である。このような単に日本語をどのように学習するかという問題に留まらない相談は、「サポート」開設当初から一定数見られたものの、2014年度ごろから目立って増加し始めた。「その他」に該当する相談事例に接しながら、「サポート」担当者らは、日本語を母語としない学生が抱える問題は、単に日本語学習の問題に留まらず、様々な問題が複合的に絡み合っているということを実感するようになった。同時に、こうした複合的な問題に対応するためには、大学内の学習リソース間ネットワーク形成が不十分であること、すなわち、留学生支援システムの不備に気づかされることになった。実際に、担当部署が特定されず、複合的な問題を抱えた学生が結果的に各部署をたらい回しにされるといった事例に直面することもあった。こうした「サポート」利用者のニーズとそれに伴う利用状況の変化を踏まえ、「サポート」担当者らは、学習リソース間ネットワークの充実・強化を目指し、学内の留学生関連部署間のさらなる連携を模索するようになった。

次節では、学習環境としての留学生支援システムという観点から、「サポート」をハブとする学内の留学生関連部署間の連携を論じる。

「わせだ日本語サポート」をハブとする学内他部署との連携

日本語学習リソースや留学生サポートと個々の留学生を結ぶ支援ネットワークを構築するため、「サポート」をハブとする学内の留学生関連部署間(具体的には国際教養学部グローバルネットワークセンター、ライティング・センター、キャリアセンター)の連携により、次のような場づくりを行っている(または行おうとしている)。

a. 学習者オートノミーの育成という理念を共有する場

【現在行われている場づくり】

  • 国際教養学部グローバルネットワークセンターの英語学習アドバイジング担当助手が「わせだ日本語サポート」のスタッフ研修4)、および読書会5)に継続的に参加している。
  • ライティング・センターのチューター研修に「サポート」のスタッフ、および担当教員が、継続的に参加している。

b. 各部署間で連携して支援実践にあたる場

【現在行われている場づくり】

  • 「わせだ日本語サポート」とキャリアセンターの共催による留学生を対象とする就職活動セミナー、および個別相談会を継続的に実施している。セミナーでは、キャリアセンター職員が日本での就職活動スケジュール、就職に必要な日本語力、その他、就職活動を行ううえでの注意点等の説明を英語・日本語で行っている。個別相談はセミナーの翌週、セミナーを行ったキャリアセンター職員が「サポート」に出向し、対応している。

【今後行う予定の場づくり】

  • 一つの相談事例に対し、複数の部署の担当者が関わる合同アドバイジングを実施する。

c. (「留学生は支援されるべき人」と一方的にとらえるのではなく)「支援される側」と「支援する側」という二項対立を超えて協働で問題を解決する場

【今後行う予定の場づくり】

  • 合同アドバイジングを段階的に教職員によるサポートから留学生、日本人学生にかかわらず、学生同士がお互いの学習者オートノミーを育て合うピア・サポートへと切り替えていく。

前節、本節で説明したような「サポート」で行われてきた諸実践を「留学生支援システム」の節で述べた支援者が担う四つの役割にもとづき考察すると、それぞれの実践は、次のように位置づけられる。

  • 「サポート」の設置: 学習リソース間のネットワークへのポータル作り
  • 「サポート」において行われている日本語学習アドバイジング:学習者の学習環境の拡大を促す支援
  • 「サポート」をハブとする学内の留学生関連部署間の連携:学習リソースの拡充、および学習リソース間のネットワーク作り

留学生支援システムの将来像

以上のように、「サポート」では、現在、「サポート」をハブとする学内の留学生関連部署間の連携をとおし、学習リソース間ネットワークの充実・強化に取り組んでいる。

留学生関連部署間の連携案の一つとして、前節で述べた合同アドバイジングは、ある一つの事例に対し、各部署の支援者が即興的に協働するという意味で、山住(2008)が主張する「ノットワーキング(knotworking)」(=結び目づくり)とも言える。ノットワーキングとは、「人やリソースをつねに変化させながら結び合わせ、人と人との新たなつながりを創発していくような活動」(p.39)の形態を示す概念である。ノットワーキングは、「いわゆる「チーム」や「ネットワーク」とは異なる」概念である。ノットワーキングにおいては、「チーム」や「ネットワーク」のような「編成が生まれては消え、別のかたちで再度現れる、といった律動がくりかえされる」。また、「要求される課題ごと、その場その場で、コラボレーションの関係を組み替えていく」(p.40)。今後、多様な言語・文化的背景を持つ学生が抱える複合的な問題に対し、効果的な支援実践を持続するためには、ノットワーキングとしての部署間連携が必要不可欠となる。また、ノットワーキングとしての部署間連携を推進することが、学習リソース間のネットワークの充実・強化に、引いては、学習者が自身で「個別的学習環境」を絶えず更新できるような留学生支援システムの構築につながるはずである。

1)日本語を母語としない学生とは、単に外国人留学生を指すわけではない。例えば、日本国籍であったとしても、様々な国・地域を移動しながら育ったため、日本語が母語ではないという場合もある。

2)2007年の留学生8000人計画の発表以来、早稲田大学における外国人学生在籍数は増加の一途をたどっている。2017年11月現在、5622名の外国人学生が在籍している。

3)学部生に関しては、全学オープン科目「日本語学習アドバイジング1・2」を履修し、単位を取得した者のみ、スタッフに応募できる。

4)「サポート」では、毎学期開始前に2日間(4時間半程度)のスタッフ研修を行っている。スタッフには、研修により、次の事項を理解することが期待されている。①「サポート」の理念(自律学習の実現をサポートするため、ティーチングやチュータリングではなく、日本語学習アドバイジングの実践を目指す)。②「サポート」スタッフの役割(アドバイザー、ナビゲーター、学習リソースの提供者)。③ 支援の際の留意事項。④ 支援活動の流れ。併せて、研修では業務分担(リーダー、広報担当、ポスター・チラシ担当、リソース担当、集計担当、美化担当)を行う。

5)「サポート」では毎学期、スタッフが自主的に読書会を開催している。読書会では、学習者オートノミー、アドバイジング、コーチング、カウンセリング等に関する本を読んだうえで、自律的日本語学習の支援のあり方や方法に関し、議論している。

筆者について

古屋憲章は、早稲田大学日本語教育研究センターにおいて、わせだ日本語サポートのスタッフを務めている。また、他大学においては、日本語授業も担当している。

黒田史彦は、首都大学東京 国際センターにおいて、日本語教育プログラムのコーディネーターを務めている。日本語学習リソースの開発などにも取り組んでいる。

参考文献

青木直子・中田賀之(2011)「学習者オートノミー―初めての人のためのイントロダクション―」青木直子・中田賀之編『学習者オートノミー―日本語教育と外国語教育の未来のために―』序章,ひつじ書房,pp.1-22.

黒田史彦(2012)「留学生支援システムの構図」『早稲田日本語教育実践研究』刊行記念号,7-23.

山住勝広(2008)「序章 ネットワークからノットワーキングへ―活動理論の新しい世代―」山住勝広・エンゲストローム,ユーリア『ノットワーキング―結び合う人間活動の創造へ―』pp.1-57.

Advertisements